「針の先に・・・」

5月21日(水)朝8:00。

年に一度のビッグイベント——そう、今年もやってきた。健康診断の日

毎年恒例、もはや儀式のようなこの行事。

今年も、不健康さに定評のある中年男性講師4人組(N岡・M田・T築・N島)と、清涼剤のようなN央先生が参戦。

会場のクリニックに入った瞬間から、妙な連帯感と「みんな早く無事に帰ろう」という謎の希望が漂う。

ところが今年の健康診断、例年と違う“事件”が起きた。

採血の順番が回ってきた私。

緊張で左腕を微妙にぷるぷるさせながら椅子に座ると、目の前に現れたのは……

なんと、かつてこのオネストで学んだ教え子のN

白衣姿で保健師として堂々と立つ彼女。

彼女の「今日はよろしくお願いします」という一言に、思わず「えっ!?Nか!?久しぶり!」と、病院であることも忘れて大声を出しそうになった(なんとか我慢したが)。

そしていよいよ――

あの瞬間。

教え子が、自分の腕に、針を刺す。

……これは、教育者人生の中でも、そうそう味わえる体験ではない。

針が左腕の血管に入る瞬間、心の中に込み上げる、なんとも言えない感情。

痛み? いや違う。

誇らしさ、感謝、そしてほんの少しの老い……。

教え子が、自分の進む道を見つけ、誇りを持って働いている姿に、胸が熱くなる。

そして何より、その手で、かつての恩師に針を刺すという「恩返し」

(いや、恩返しとしてはだいぶ尖ってるけど……)

思わず、「N……なんやようわからへんけど……針刺さってるし……血、抜かれてるけど……
血、いっぱい出てきてるけど……なんや嬉しいわ!」と呟いた。
彼女は笑顔で「不規則大王だから、先生もちゃんと健康でいてくださいね」と一言。

Nは中学生のころからコミュ力の高い非常に優秀な生徒だった。授業中も授業後も気付けば多くの友人たちと私の近くにいてくれて、勉強だけでなくいろいろな話をするのがとても楽しかった。その分、私にとっては非常に近い存在の生徒で、オネストを卒業後も大学進学や成人式には必ず連絡をくれていた大切な教え子の一人だ。

──今日は、少しだけ血を抜かれたが、

それ以上に、教育の意味歳月の重みを、全身に注入された気がした。

その後の問診で…
「血圧は日頃からこれくらいの数値ですか?」
「いや、あんまり測らへんでなぁ……どないなん?」
「めっちゃいいですよ!正直こんなにいいとは思ってもいませんでした!

来年の健康診断も、ぜひこのメンバーで行きたい。
一人だけ生活習慣病の指導部屋に連行されたT築を、4人で涙をこらえながら見送った。

日々の健康管理をちゃんとしなければ……帰りに買ったアップルパイは格別においしかった。

進学塾オネスト 西岡宏樹